易水送別  <駱賓王>










読み方

易水送別  <駱賓王>
此の地 燕丹に別る
壮士 髪冠を衝く
昔時 人已に没し
今日 水猶寒し



 えきすいそうべつ  <らくひんのう>
このち えんたんにわかる
そうし はつかんむりをつく
せきじ ひとすでにぼっし
こんにち みずなおさむし


現代日語訳:

易水の別れ  <駱賓王>
ここで燕丹と別れた
壮士の髪は冠を突き上げた
あの人はすでにこの世を去ったが
今もなお、この水は冷たい


より自然な読み下し風(現代語)

この地で燕丹と別れたのだ
壮士は怒りに髪を逆立て、冠を突き上げた
あの英雄はとっくに亡くなったのに
今日も易水は、変わらず冷たいままだった。


詩の意味



如果要改成現代日語(現代語訳),並保留原詩的悲壯氣氛,可以譯成:

這個版本是日本人最容易理解的現代日語。如果希望更有文學性,也可以寫成:

この地で燕の太子・丹は荊軻を見送った。
荊軻は決死の覚悟に満ち、髪が逆立つほどの気迫を放っていた。
その英雄はすでに世を去った。
それでも易水は、今なお冷たく流れ続けている。


 (君を見送る)この易水の地こそ、かつて刺客(しかく)の荊軻(けいか)が燕の太子丹と別れたところだ。そのとき意気盛んな忠臣荊軻の髪は憤りのあまり冠を突き上げるばかりであった。(あれからもう8、9百年)

 その当時の人々は没してしまったが、易水の水は今もなお昔のままに寒々と流れているのみである。

語句の意味
此 地
易水のほとり 今の河北省保定府にある
燕 丹
戦国時代の燕王である喜の太子 丹のこと
壮 士
意気盛んな者 ここでは燕の忠臣荊軻を指す
今 日
作者が易水のほとりで盟友徐敬業(じょけいぎょう)を送別する日
鑑賞
  白装束の別れ、易水送別

 本来は「於二易水一送レ人」であるが本会では「易水送別」とした。初唐の則天武后(そくてんぶこう)の時世、女帝の横暴政治を戒めるため、革命軍長徐敬業が謀反を企て、その一員となった作者が彼の長安行きを送った詩である。この詩を理解するためには紀元前の戦国時代に遡(さかのぼ)らなければならない。その要点のみを紹介する。 

 当時強国となりつつあったのは秦(しん)である。秦は領地を拡大していった。前246年に秦の王・政(後の始皇帝)が即位後は燕まで触手を伸ばし、燕では友好を保つため皇太子の丹を人質として送った。実はそれ以前に政と丹は幼馴染であった。趙(ちょう)の国で人質として二人とも苦労した仲である。その縁から丹は人質とはいえ相当の待遇があるものと期待していたが、政の丹への処遇は冷厳なものであった。運よく脱出した丹は帰国して当然復讐心に燃え、政の暗殺を企てた。その刺客に選ばれたのが荊軻という人物である。彼は督亢(とくこう)の広大な土地を手土産に秦に赴いた。虎の前に出る羊のようなもの。荊軻を燕の国境である易水で見送った丹たち官僚の服装は皆白装束であった。荊軻は次の詩句を残して出国した。

  風蕭蕭として易水寒し

  壮士一度去って復還らず

 荊軻は手土産の土地を示す地図を王の前で広げるや否や、その中に隠しくるんでいたヒ首を(あいくち)で一気に王の命を奪う計画であった。しかしヒ首は政に届かなかった。暗殺は失敗し、当然荊軻はその場で切り捨てられた。

 この荊軻と同じ重い任務を背負って命を懸けて都に向かう徐敬業を、不運の英雄・荊軻と同じ易水で、今生の別れと見送るのがこの詩である。断腸の思いを感じたいものである。

参考
  則天武后の治世

 武后は2代皇帝太宗の側室であったが、彼が死すといったん尼寺にこもり新しい体になって3代目高宗の后の位についた。病弱な王は武后に政治の多くを託した。彼女はみごとな決断力の持ち主であった。その後武后は政務をとるようになり、出身門地が低いにもかかわらず天后と称された。自分の子を4代皇帝に立てたが間もなく彼を帝位から引き下ろし、自ら690年に皇帝と称し国名を周に変えた。約50年間、専制独裁的実権を握った女帝である。

詩の形
 仄起こり五言絶句の形のようであるが拗体の形(古詩)であるため、平仄は論じない。上平声十四寒(かん)韻の丹、冠、寒の字が使われている。

結句 転句 承句 起句
作者
駱賓王  640~684?

 初唐の役人・詩人

 太宗皇帝の貞観14年に浙江省金華府義烏県に生まれる。五言詩に巧みで帝京編(都の貴人の栄華もいつかは滅びるように、自分の才能も見放されたという内容の長編詩)の詩で早くから世に知られた。則天武后の時しばしば上書して諌(いさ)めたが聞かれず、徐敬業が乱を起こすやその幕僚となり、彼のために檄文(げきぶん)を書いて天下に呼び掛け、武后の罪を指弾した。徐、敗れて後、行方不明となる。王勃(おうぼつ)、楊烔(ようけい)、盧照鄰(ろしょうりん)と並んで初唐四傑と称せられる。

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