碩中作(岑參)
馬を走らせて西の方へやって来たのだが、どこまで果てしなく平原は広がり、天に達するかと思われるほどだ。 この辺境の戦場の地に赴いて、家族と離れて以来、もう2回目の満月を見る。 ずいぶん長い遠征となってしまった。 今夜は何処を宿営地とするのだろうか。 広い砂漠はどこまでも続いており 人の住んでいる様子もない荒涼とした地である。帰郷できる日が待ち遠しいものだ。 読み方 磧中の作 <岑 参> 馬を走らせて 西来 天に到らんと欲す 家を辞してより 月の両回 円かなるを見る 今夜は知らず 何れの処にか宿せん 平沙 万里 人煙絶ゆ せきちゅうのさく <しんしん> うまをはしらせて せいらい てんにいたらんとほっす いえをじしてより つきのりょうかい まどかなるをみる こんやはしらず いずれのところにかしゅくせん へいさ ばんり じんえんたゆ 詩の意味 馬を走らせて西へ行けば、地平線は果てしなく天まで続いていて尽きることがない。もう家を出てから2回も満月の夜を迎えたのだ。 今夜はどこに野宿するのだろうか、何のあてもない。見渡す限り月下に広がる沙漠は果てしなく続いて、人家の煙さえ見えないのだ。 語句の意味 磧 中 砂漠の中 西 来 西に向かっていく「来」は語勢を強める助字 月両回円 満月が2回 2か月が過ぎること 平沙万里 平らかな砂漠が遥か遠くまで続いている 人 煙 人家の生活する煙 鑑賞 孤独で心細い旅人の心境を歌った傑作 この詩の制作年代ははっきりしないが、作者は天宝8年(749)に節度使の下級役人として安西に赴任している。3年後には北庭(新彊省チムサル県)に行き、翌年には同省の輪台に生活するなど辺塞生活を経験しているから、このころの作と思われる。この詩は辺塞詩のうちでも名作中の名作と言われているが、日本人には想像もつかない描写の連続で圧倒される。地平線が天に届くほど行く道は永遠に続くとか、馬とともに2か月も旅を続ける生活。食料や水はどうしていたのかと素朴な疑問がわくが、答えは見当もつかない。そして砂の上の野宿。もし冬なら零下何十度にもなる極寒の地である。さらに行けども行けども人家は見えない。その心細さは地獄に誘導されるようではなかったか。それでもなお役目を背負って行かなければならなかった役人の悲壮さは想像を絶する。...