読み方
- 春 夜 <蘇東坡>
- 春宵一刻 值千金
- 花に清香有り 月に陰有り
- 歌管楼台 声細細
- 鞦韆院落 夜沈沈
- しゅんや <そとうば>
- しゅんしょういっこく あたいせんきん
- はなにせいこうあり つきにかげあり
- かかんろうだい こえさいさい
- しゅうせんいんらく よるちんちん
通釈
春の夜は一時が千金もの値打がある。
花は清らかな香りを放ち月は朧にかすみ、なんともいえぬ風情である。
先ほどまで歌ったり楽器を奏したりして賑やかだった高殿も、今はかすかに音が聞こえるばかり。
人気のない中庭に、ひっそりとブランコが垂れて、夜は静かに更けていく。
###
春の宵は一刻に千金の価値がある
花は清らかに香り、月はおぼろに霞みがかかる
歌や笛がにぎやかだった高殿も今は音もかすかになり
ブランコのある中庭では静かに夜が更けていく
意訳:
春の夜のひとときは千金の値打ちがある。
花は清らかな香りを放ち、月はおぼろにかすんでいる。
歌や管弦でにぎわっていた高殿は静かになった。
もはや中庭のブランコに乗る人もなく、夜はしんしんと更けていく。
詩の意味
春の宵の一刻は千金の値打ちがあるほど素晴らしい。花は清らかな香りを放ち、月はおぼろにかすんでいる。
先ほどまで歌声や笛の音(ね)がにぎやかだった高殿からは、名残りを惜しむように細々とかすかに聞こえるだけで、乗る人も無くなったぶらんこのある中庭に、夜は静かに更けていく。
口語訳
春の夜のひと時は、千金のお金を払ってもいいくらい良いものだ
花々は清らかに香っているし、月もおぼろである
昼間の間あれほど賑やかだった歌や管弦の音ももうかすかに聞こえるのみである
女官たちが遊んでいた中庭のブランコも寂しくたたずむ静かな夜である
★
春の宵のひとときは千金のねうちがある。
花には清らかな香りがただよい、月はおぼろにかすんで風情がある。
先ほどまで歌や楽器で賑やかだった高殿も、かすかな声になっている。
中庭には、ぶらんこがぽつんと置き忘れられ、夜がしずかにふけてゆく。
語句の意味
- 千 金
- きわめて高価なこと
- 歌 管
- 歌声と管絃の音
- 鞦 韆
- ぶらんこ
- 院 落
- 建物で囲まれた中庭
- 夜沈沈
- 夜が静かに更けていくさま
鑑賞
清明(せいめい)節の宴のあとは……
美しく穏やかな春の夜を詠じている。1句目の「春宵一刻……」があまりにも有名なので、雰囲気はみんな感じ取っている。時期や場所は不明だが、ごく若いころの作品であろうという解説書もある。
第1句は冬の寒さから解放された春宵の素晴らしさを表出し、2句目はその具体的な説明である。第3句と4句は対をなし、管絃の音の聞こえる動的な世界と、静かに夜が更けていく静的なそれとの対比も、その場にいるように誘い込まれる。
当時貴族の邸では寒食(かんしょく)という行事があった。陰暦3月の清明節の前後3日間ほど、火を使わないで冷たいものを食べる風習である。この行事も一つの節会(せちえ)であるから、昼間は高殿で貴族が歌や笛の雅楽で楽しみ、女官たちは蹴鞠(けまり)やブランコで遊んだようである。その昼間のにぎやかさを想像しながら、寒くもなく暑くもない春の宵の穏やかな庭に誘われてみよう。
漢詩の小知識
清明について
二十四節季(立春、雨水=うすい=、啓蟄=けいちつ=、春分、清明、穀雨、立夏、小満=しょうまん=、芒種=ぼうしゅ=、夏至、小暑、大暑、立秋、処暑、白露=はくろ=、秋分、寒露、霜降=そうこう=、立冬、小雪、大雪、冬至、小寒、大寒)の一つで、春分から15日目をいう。中国では先祖の墓参をする日である。この日の前後は寒食といって火を用いない料理を食べる。冷食ともいう。宮中では管絃の催しがあり祝う。現代中国では国民の祝日となっていて休日だから、墓参も寒食もその習慣が薄れ、観光旅行にあてたりしている。杜牧の「清明」という絶句にあるように雨の多い季節でもある。
詩の形
平起こり七言絶句の形であって、下平声十二侵(しん)韻の金、陰、沈の字が使われている。
| 結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
|---|---|---|---|
作者
蘇 東坡 1036~1101
北宋の政治家・詩人・文章家
名は軾(しょく)、字は子贍(しせん)、号は東坡。四川省眉山県の生まれ。父洵(じゅん)、弟轍(てつ)とともに「唐宋八大家」に数えられ、三蘇といわれた名文章家。幼にして 道教的教育を受け、20歳の時上京して官途に就く。当時の礼部侍郎(れいぶじろう)であった欧陽修に見出され、終世師と仰ぐ。中央、地方の官を歴任しその間たびたび流謫(るたく)された。 官は礼部尚書(れいぶしょうしょ=今の文部科学大臣)に至る。江蘇省常州において没す。散文「赤壁の賦(せきへきのふ)」は有名。死後皇帝より文忠公と諡(おくりな)された。享年65。
沒有留言:
張貼留言
注意:只有此網誌的成員可以留言。