清平調詞(其の三)  <李白>

公益社団法人 関西吟詩文化協会
漢詩紹介

吟者:松尾 佳恵
2005年6月掲載



読み方
 清平調詞(其の三)  <李白>
名花傾国 両つながら相歓ぶ
常に 君王の笑いを帯びて 看るを得たり
解釈す 春風 無限の恨み
沈香亭北 欄干に椅る
 せいへいちょうし(そのさん) <りはく>
めいかけいこく ふたつながらあいよろこぶ
つねに くんのうのわらいをおびて みるをえたり
かいしゃくす しゅんぷう むげんのうらみ
ちんこうていほく らんかんによる

詩の意味
 名花牡丹と傾国の美人楊貴妃の両方の美しさにご満悦の様子で、そのありさまを皇帝は、笑顔でいつまでも眺めている。

 皇帝の寵愛を得て、楊貴妃は春風の限りない愁いを解きほぐして、沈香亭の北の欄干によって花を賞でている。

語句の意味
名 花
名高く美しい花 ここでは牡丹
傾 国
絶世の美人 ここでは楊貴妃
君 王
玄宗皇帝
解 釈
解きほぐす 解消する
春風恨
春愁
沈香亭
沈香木で作った長安の興慶宮の西北にあった宮殿中の一小亭で龍池の東にあった
鑑賞
  「春風の恨み」とは何だろう

 この「清平調詞」三首が即興により同時に作られたということになっているので、三連の屏風画を見るように連続して鑑賞したい。その主人公楊貴妃が、脚光を浴びて華やかに語られている。ただ三句目の「春風無限の恨み」の部分だけがやや陰のある、くらい表現になっているのは、どうしたことか。一説を紹介する。

 牡丹は年々春になれば美しい花が開くが、人生の栄華は花と違って、とりわけ若い女性にとっては、忽ち衰落しやすく、やがて行く末は君の寵愛を失うに至ることが多い。それが「春風無限の恨み」である。ところが貴妃はいまや君の寵愛を一身に集めているので、このような恨みはすでに解消し、気にもかけないで、花とともに君の側に侍(はべ)り、沈香亭の北側の奥深い手すりにもたれて、胸中一点の恨みもない態度で、なまめき媚びた姿を尽くして玄宗の御心を慰めている。ともかく、この三詩は牡丹・貴妃・玄宗・王宮・李白・李亀年など当代最高の俳優と演出家を以て歌われ、王朝全盛の華麗なこと、この上ない絵巻物となっている。

参考
  ①「傾国」が美人?

 漢の武帝の時、帝の李夫人の美しさを、帝お気に入りの名歌手・李延年が称して「一顧すれば人の城を傾け、再顧すれば人の国を傾く」と歌ったことに基づく。つまり、皇帝でさえ国を顧みないほどの美人。

  ②白居易は「長恨歌」の中で楊貴妃をどう表現したか

「天生の麗質自ずから棄て難し」
「眸を廻らして一笑すれば百媚生ず」
「六宮の粉黛顔色無し」(六宮の粉黛=宮殿の美女たち)
「雲鬢花顔金歩揺」(ふさふさと豊かな髪、花のように美しい顔、それを引き立てる金のかんざし)

詩の形
 平起こり七言絶句の形であって、上平声十四寒(かん)韻の歓、看、干の字が使われている。

結句 転句 承句 起句
   
   
   
   
   
   
   
作者
李 白  701~762

 盛唐時代の詩人

 四川省の青蓮郷(せいれんきょう)の人といわれるが出生には謎が多い。若いころ任侠の徒と交わったり、隠者のように山にこもったりの暮らしを送っていた。25歳ごろ故国を離れ漂泊しながら42歳で長安に赴いた。天才的詩才が玄宗皇帝にも知られ、2年間は帝の側近にあったが、豪放な性格から追放され、再び漂泊した。安禄山の乱後では反朝廷側に立ったため囚われ流罪となったがのち赦され、長江を下る旅の途上で亡くなったといわれている。あまりの自由奔放・変幻自在の性格や詩風のためか、世の人は「詩仙」と称えている。酒と月を愛した。享年62。

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