蘇台覧古  <李白>

読み方

  •  蘇台覧古  <李白>

  • 旧苑荒台 楊柳 新たなり
  • 菱歌清唱 春に勝えず
  • 唯今惟 西江の月のみ 有りて
  • 曽て 照らす 呉王 宮裏の人
  •  そだいらんこ  <りはく>

  • きゅうえんこうだい ようりゅう あらたなり
  • りょうかせいしょう はるにたえず
  • ただいまただ せいこうのつきのみ ありて
  • かつて てらす ごおう きゅうりのひと


蘇臺覽古---李白


かつて呉王闔閭が築いた姑蘇台も荒れ果て、今、新しく楊柳が芽吹いている。
池や沼に自生する菱の実を採りながら歌う菱歌が清らかに聞こえて来る。
古いものと新しいものが入れ替わる春の愁いを一層感じさせる。
今も昔も変らないものは西江の川面に光を落とす月のみである。
この月は、呉王の宮殿に居た絶世の美女「西施」を照らしていたあの月と同じ月なのだ。

詩の意味

 呉王の姑蘇台(こそだい)は古びた庭園や荒れた高台になってしまったが、その中で楊柳だけが今年も新しい芽を吹いている。水面を渡る菱(ひし)採りの乙女らの清らかな声を聞けば、やるせない春の愁いに耐えられない。

 春を謳歌(おうか)した呉王の宮殿蘇台には、只今は西に流れる川を月が照らしているばかりである。曽(かつ)ては呉王の宮殿の美女、西施(せいし)や多くの女性たちの姿を照らしていたものだが……。

語句の意味

  • 蘇 台
    呉王闔廬(こうりょ)と息子の夫差(ふさ)が姑蘇山に建てた宮殿 今の江蘇省蘇州市の霊岩山がその跡とされている
  • 覧 古
    懐古に同じ
  • 菱 歌
    菱の実採りの舟歌
  • 宮裏人
    呉王夫差の宮中にあった美女の西施や女性たち

鑑賞

  傾国の美女西施に溺れた呉王の末路

 春秋時代から約千年の後に李白が呉の宮殿跡を訪れた折の感慨を述べた詩である。呉と越は以前から大の仇敵(きゅうてき)である。紀元前496年呉王闔廬は越を攻めたが敗勢となり落命した。王位を継いだ夫差はその恨みを忘れないため、自分の部屋に入る時には衛兵に「貴方はあなたの父が越に殺されたのを忘れたのですか」と言わせ、さらに薪の上に寝てその痛さに耐えて復讐心を高めた。いわゆる「臥薪(がしん)」の故事。3年後夫差は越を攻め、今度は会稽山(かいけいざん)に越王を閉じ込め、勝利を得た。越王は「私は呉の臣下となりましょう。妻は呉王に差し上げます」と言って命乞いをした。一方越の忠臣范蠡(はんれい)は賠償として絶世の美女西施を夫差に送り、呉王がその色香に迷って国政を顧みないよいうにする作戦に出た。この策があたって夫差は西施に溺れ贅沢(ぜいたく)な暮らしを極めて国力は衰退していった。このころ建てたのがこの姑蘇台である。

備考

 この詩は李白の「越中懐古」と併読することが必要で、両詩の句作りと構成に共通なものが感じ取れる。呉越抗争という一連の題材に李白の連作的な意図が感じ取れる。

参考

  顰(ひそみ)に倣(なら)う

 西施の美しさはことわざ「顰に倣う」が最もよくその姿を伝える。「荘子」によれば、西施が胸を病んでいたので眉をひそめて歩いていたら一層美しく見えた。他の女性たちも眉をひそめれば美人に見えるのだと信じて、みんな真似をして歩いた。気味悪がった金持ちは外出を控え、貧しい人は妻子を連れて逃げ出したとある。今ではこのことわざは①やたらに人真似することと批判的だったり、②相手の言う通りにいたしますと謙遜的にも用いる。

  「奥の細道」に採用された西施

 「奥の細道」の象潟(きさかた)の段に「象潟や雨に西施がねぶの花」という句がある。雨にぬれて咲くねぶの花の趣は、西施がもの思わしげに眼をつむっている風情に似ているという意味で、ねぶの花の美しさを詠んでいる。

詩の形

 仄起こり七言絶句の形であつて、上平声十一眞(しん)韻の新、春、人の字が用いられている。

結句転句承句起句

作者

李白  701~762

  盛唐時代の詩人

 四川省の青蓮(せいれん)郷の人といわれるが出生には謎が多い。若いころ任侠の徒と交わったり、隠者のように山に籠ったりの暮らしを送っていた。25歳ごろ故国を離れ漂泊しながら42歳で長安に赴いた。天才的な詩才が玄宗皇帝にも知られ、2年間は帝の側近にあったが、豪放な性格から追放され、再び漂泊した。安禄山の乱後では反朝廷側についたため囚われ流罪(るざい)となったがのち赦(ゆる)され、長江を下る旅の途上で亡くなったといわれている。あまりの自由本放・変幻自在の性格や詩風のためか、世の人は「詩仙」と称えている。酒と月を愛した。享年62。

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