1.台湾「6欠」問題の背景
台湾は極めて好調な経済状況が続いている。 2021年のGDP成長率は6.45%と、2010年のリーマンショックでの反動を除くと2007年以来の高成長を記録し、行政院主計総処の見通しでは、2022年も4.42%と高成長を維持するとされている。
こうした好調な経済状況を支えているのは、半導体等の電子部品を中心とした輸出と、電子部品関連産業や台湾企業の台湾回帰投資等に伴う民間投資である。輸出については、2021年は対前年比で29.4%増(金額ベース)と大幅に増加し、このうち半導体は27.1%増(同)を記録した。一方、民間投資については、台湾積体電路製造(以下、
図表1 台湾の実質GDP成長率の推移
出典:行政院主計総処公表資料(実績値:2022年4月28日、予測値:2022年2月24日)よりNRI台湾作成
TSMC)が2022年の設備投資額を対前年比4割強増の最大440億USD(約5.7兆円、1USD=130円で換算;グローバルベースだが主力は台湾内)と発表、台湾回帰投資も2022年5月5日時点の認可ベースで約1.7兆NTD(約7.5兆円、1NTD=4.40円で換算)まで積みあがっており、今後も活発な投資が見込まれる。このように、現在の台湾経済は、台湾での投資増→輸出増→好調な企業業績に基づく所得増→域内消費増という好循環で成長しており、こうした状況は、世界の半導体等の市況見通しが引き続き好調であることから、今後も当面続くと予想される。
一方で、こうした好調な経済を支えている活発
な台湾域内投資は、同時に負の側面も台湾にもたらしている。台湾域内で工場や研究開発施設等が次々と新設されることにより、そのための土地や産業用の電力や水等の消費量は増加すると共に、これらの施設で働く労働者やエンジニア数、工場から排出される廃棄物の量も増大する。こうした電力、水、労働力、人材、産業用地、廃棄物処理の需要が当初の想定範囲内であれば大きな問題にはならないであろうが、先に示したような急激な経済成長に伴う台湾域内投資の急増に伴い、台湾域内におけるこれらのリソース不足が顕在化してきている。これは、経済が好調であるが故の反作用とも言えるが、放置すると、台湾域内投資にブレーキがかかり、経済が減速することにも繋がりかねない。同時に、今後台湾で投資を拡大しようとする日本企業にとっても、極めて大きな問題と
なってくる。
こうしたことから、2021年度に野村総研諮詢顧問(以下、NRI台湾)では日本台湾交流協会から委託を受け、いわゆる台湾「6欠」問題と言われる電力、水、労働者、人材、産業用地、廃棄物処理場の不足実態と、それに対する台湾当局の対応について調査を行った。本稿では、その調査結果について解説した上で、日本企業に対する示唆を考察する。
2.台湾「6欠」問題の実態と台湾当局の対応
1)電力不足問題
① 電力不足の実態
台湾の電力使用量と発電量の推移をみると、 2016〜2021年において、ほぼ一貫して増加している。その年間増加率は、共に概ね2%前後であったが、2021年は特に使用量が対前年比4.3%と急増し、発電量の3.9%を大きく上回った。台湾当局の説明では、同年5〜7月に実施された新型コロナウイルス感染拡大に対応した警戒度レベル3に伴う在宅勤務の増加や産業用電力使用量の増加が原因とのことであるが、台湾の電力使用量の6割弱が工業部門であるのに対して、住宅部門は2割弱であることを考えると、工場の増設等に伴う電力使用量の増大が、特に大きく影響していると考えられる。
2021年は電力使用量の伸びに発電量が追い付い
ていなかったが、それでも年間合計では、毎年電
図表2 台湾の電力使用量及び供給量の推移
出典:経済部能源局の統計資料より、NRI台湾作成
力使用量を約3割上回る発電量が確保されている。しかし、電力使用量と発電量は毎日変わることから、1年間の間には、一時的に電力が足りなくなる可能性もある。こうした状況への対応力を見るには、電力の供給予備率(不測の事態に備えて稼働が準備されている発電設備の発電容量が、予想される電力需要量を上回る比率)や運転予備率(供給予備率のうち、短時間で対応可能な比率)をみると分かる。
このうち、特に運転予備率については、2019年
下半期から比較的安定した状況が続いていたが、 2021年5月に台湾当局が定める供給警戒レベルで
ある6%を割り込む日が発生した後、断続的に危険な状況が続いている。
このため、最近台湾では大規模停電が頻発している。具体的には、2021年5月に2回、2022年3月に1回、大規模停電が発生した。共に台湾全土で停電が発生しており、2022年3月の大規模停電では、台湾電力の董事長(会長)と総経理(社長)が共に引責辞任するという事態に発展した。
② 電力不足問題への台湾当局の対応
こうした状況に対応すべく、今後、台湾当局は積極的に発電所の増設を行う予定である。台湾当
図表3 台湾の運転予備率の推移
出典:台湾電力の統計資料(2021年)より、NRI台湾作成
図表4 最近の台湾における大規模停電
出典:公開資料や新聞記事よりNRI台湾作成
図表5 台湾における発電所退役及び新設計画
出典:経済部「108/109年度全国電力資源供需報告」(2021年)によりNRI台湾作成
局は2025年までに原子力発電を全廃、石炭火力を減らして、ガス火力5:石炭火力3:再生可能エネルギー(以下、再エネ)2というエネルギーミックスを実現する目標を掲げている1。これに基づき、今後整備が予定されているのは基本的にガス火力と太陽光及び洋上風力を中心とする再エネである。
経済部の計画によると、2022〜27年の退役発電所の合計発電容量が9,659MWであるのに対して、新設発電所は37,438MWと4倍近くに上っており、発電設備は大幅に増強される予定である。しかし、退役するのが原子力や石炭火力といった安定供給可能な電源であるのに対して、新設の多くは太陽光や洋上風力のような設備利用率が低く、季節や天候によって発電量が変わる不安定な電源であることから、電力の安定供給には不安も残る。また、再エネの比率が高まると、電力系統網への負荷も大きくなり、ここがボトルネックとなって電力供給に障害が発生する危険性も高まる。
2022年3月末に台湾当局は、短期的にはガス火
力を増強して安定供給を確保しつつ、中長期的には総発電量に占める再エネの比率を60〜70%まで
引き上げて、2050年にカーボンニュートラルを達成すると発表した。しかし、電力供給システム全体として、スムーズ且つ安定的に移行していくための具体的なアクションプランについては、まだ、台湾当局にて検討が進められている段階である。
2)水不足問題
① 水不足の実態
台湾の水供給量は、近年の世界的な気候変動の影響による降水量減少等のため、最近10年間で約
8%減少した。一方で、水需要量全体の約10%を占める工業用水は、工場新設等の影響もあり、最近10年間で逆に約8%増加した。
また、2020年は過去57年間で最も深刻な干ばつが起こり、2021年の春の降水不足も重なり、2021年3月には苗栗、台中等、特に中部を中心とする主要なダムの貯水量が15%を下回った。これにより、苗栗・台中・彰化北部などの地域は2ヶ月間の給水制限を余儀なくされる等、深刻な水不足が発生している。
1 2021年1月3日に台湾当局は、2025年の再エネの目標比率を15.3%に変更
図表6 台湾における水供給量及び工業用水量の推移
水供給 工業用水
出典:経済部水利署、工業局の資料によりNRI台湾作成
② 水不足問題への台湾当局の対応
水不足の抜本的な解決にはダムの新設が最も有効ではあるが、水供給を管轄する経済部水利署によると、自然環境保護の観点から、これ以上のダム増設は難しいとのことである。従って、増大する工業用水需要に対応するため、これまでは「工業用水安定供給のためのアクションプラン(2017年)」や「干ばつ対策の水源2.0計画(2021年)」を策定し、ダムの浚渫、漏水率の改善、地域間の水輸送管の建設、井戸水や伏流水の活用、再生水利用、淡水化プラント等の水供給体制強化を打ち出している。
水利署によると、今後の重点施策は再生水プラ
ントや海水淡水化プラントの建設による、天候に左右されない安定した水資源の確保とのことである。再生水プラントについては、行政院によって既に11か所の下水処理場の下水再利用が承認されており、2021年末時点で高雄と台南で3か所が稼働中、桃園、台中、台南で5か所が建設中、新竹、高雄で3か所が計画中となっている。また、企業に対して使用量の一定割合を再生水とする義務が導入される可能性もあるとのことである。
淡水化プラントについては、これまで澎湖島等
の離島が中心であったが、今後は台湾本島でも導入が進められる可能性がある。2021年には新竹と台中の2か所で小規模な緊急淡水化プラントが臨時で整備されたが、今後は6か所で本格的なプラントが計画されており、2022年末までには新竹と台南の2プラントの環境アセスメント作業が終了する予定である。但し、淡水化プラントは消費電力量が膨大であり、電力不足が問題となる中で、
今後積極的に推進していくかどうかについては、台湾当局内で未だ結論が出ていない。
一方、需要量の面では、大口需要家に対する超過料金徴収による節水推進方策を打ち出そうとしている。2021年末には追加料金徴収制度の草案が水利署から発表され、2022年7月1日より施行される予定である。これは、1か月間の水使用量が 9000㎥を超える大口需要家に対して、毎年11月から翌年4月までの渇水期に適用されるものであり、現在のところ1700社が対象となる予定である。
3)労働力不足問題
① 労働力不足の実態
台湾は少子高齢化が急速に進んでおり、総人口は2020年から減少に転じている。また、合計特殊出生率は2020年に0.99と、韓国に次いで世界ワースト2位となっている。このため、今後、少子高齢化は更に加速することが予想される。また、台湾が豊かになったことで、若者が工場や建設現場等での労働を敬遠するようになっていることも、労働力不足に拍車をかけている。
こうしたことから、2020年頃までは労働力人口が必要な労働力を上回っていたが、2022年にはそれが拮抗し、今後、労働力人口の方が下回ることが予想されている。
台湾では、労働力不足に対応するため、これまで外国人労働者の受け入れを積極的に行ってきた。現在は新型コロナウイルスによる影響のため、新規の外国人労働者が台湾に入れない状況が続いていることから、一時的に深刻な労働力不足の状況に陥っているが、新型コロナウイルスの流行前
図表7 台湾における労働力人口と必要な労働力の推移及び見通し
出典:行政院主計処、国発会、労働部統計資料よりNRI台湾作成
でも、外国人労働者の定着には課題があった。これは、現行の就業サービス法では、外国人労働者は原則12年間しか台湾に滞在できないと共に、「中級技能職」にも就けないという問題である。その結果、外国人労働者はせっかく技能を身につけても、昇進や昇給の面で限界があると共に、ビザが切れると同時に日本や韓国等に出て行ってしまうという状況が発生していた。
② 労働力不足問題への台湾当局の対応
労働力不足への台湾当局の対応は大きく2つの柱からなっている。1つは海外からの労働者の導入と定着、もう1つは自動化の推進による必要労働者数の削減である。
前者については、「外国人労働者定住化プログラム」に関する法案が2022年2月下旬に可決され、早ければ2022年上半期には施行される予定である。先に述べた問題を解決するために、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、モンゴルの6カ国からの労働者については、台湾で6年間勤務し、一定の技能を習得した労働者や副学士以上の学位を取得した外国籍学生で、外国人中級技能者の技能・給与基準を満たしている場合は、雇用主が中級技能者への転換を申請することができるようになる。また、台湾で5年間勤務後、出入国管理法に基づいて審査・承認されると、
永住権を申請することもできる。これによって、外国人労働者の来台を促進させると共に、ミドルスキルを有する外国人労働者の台湾定住を促すことで、労働者不足の問題を解決しようとするものである。
後者については、台湾当局が2016年から実施している「スマート機械産業推進プログラム」によって、工場の自動化を促進させている。具体的には、企業は2024年までにスマート設備に100万 NTD以上投資すれば、単年度の事業所得税を5
%割引(3年にわたる投資の場合は年率3%)できるものである。こうした施策の推進により、工場などにおける必要労働者数の削減が期待できる。
4)人材不足問題
① 人材不足の実態
先に述べたように、2020年には合計特殊出生率が0.99になるなど、台湾の少子化は極めて深刻な状況にあり、学生数も年々減少している。台湾の理系(STEM領域:Science、Technology、Engi- neering、Mathematics)高等教育機関の卒業生数は、2015年の99,364人から2020年には88,810人と、5年間で11%も減少した。
一方で、理系人材の需要は、半導体等の電子関連企業等の投資拡大に伴い、年々増加している。世界的な半導体企業であるTSMCの年間採用人数
図表8 台湾における理系卒業生数とTSMC採用人数の推移
理系(STEM)卒業生数の推移 TSMC採用人数の推移
出典:教育部、TSMCの公開資料よりNRI台湾作成
は、2015年の3,393人から2020年は7,322人と約2.1倍に急増している。こうしたことから、特に製造業における理系人材の獲得競争が激しくなってきている。
台湾の産業別GDPの34%は製造業であり、特に電子・情報関連産業の占める比率が高く、理系人材のニーズは高い。しかも、これらの企業業績は輸出の伸びに支えられて極めて好調に推移しており、給与水準も非常に高い。こうしたことから、人材不足という問題のみならず、人件費の高騰も問題となっている。
② 人材不足問題への台湾当局の対応
理系人材不足という課題を解決するために、行政院は2019年に「高度人材育成及び誘致計画」を策定し、台湾の特定分野における人材育成と海外人材の誘致の2点を行っている。前者については、
「国家重点分野の産学連携と人材育成の革新に関する規定」が2021年5月に制定され、半導体、人工知能、スマート製造、循環型経済、金融の5つの重点分野において、台湾の人材育成を強化するために、「台湾国家重点研究領域学院」の設立を進めている。これは、大学と企業が共同で人材育成を行う点に特徴があり、各学院は大学独自の研究費とは別に予算を持ち、その半分以上は提携する民間企業からの資金で賄われている。また、このカリキュラムの後半の2年間は提携企業でのインターンシップが中心となっており、一部の学院では、卒業後に直接提携企業に入社できる「アーリーバードプログラム」も実施している。現在、
台湾大学、陽明交通大学、清華大学、成功大学、中山大学で設立されており、企業にとって即戦力となる理系人材の育成に力が入れられている。
後者については、「海外専門人材法」が2018年に制定(2021年に改正)され、中国籍を除く外国人専門家が台湾にやってきて働き、滞在するためのインセンティブが強化されている。具体的には、台湾に3年滞在した後、永住権が取得可能(台湾で博士号を取得した場合は2年で取得可能)、就職ゴールドカードが取得可能等といった優遇策が講じられている。就職ゴールドカードは、労働許可証、居住ビザ、外国人居住許可証、再入国許可証が一体となったもので、初任給が300万元を超える場合、最初の5年間は所得税が50%減免されるといった優遇がある。同カードの発行は2018年から開始され、2021年には累計3,925枚が発行された。
5)産業用地不足問題
① 産業用地不足の実態
台湾では、冒頭で述べた企業投資の増加に伴い、産業用地ニーズが年々高まっている。これは半導体等の電子関連産業の好業績、中国大陸等に進出した台湾企業の台湾回帰投資等によるものであるが、海外からの直接投資も2015年までは50億USD前後だったのが2016年から急増し、100億USD前後とほぼ倍増していることも影響している。
このように、台湾域内外企業の台湾投資が増える一方で、台湾は平野が少なく、環境アセスメントや農地転用に関する厳しい制限が設けられてい
図表9 台湾当局管轄の工業団地一覧
出典:経済部の公開資料よりNRI台湾作成
ることもあり、工業団地の新規造成は容易ではない。こうしたことから、台湾当局や地方自治体主導で、新たな産業用地の整備が行われている。
② 産業用地不足問題への台湾当局の対応
台湾当局は、公有地の優先開発、民間遊休地の有効活用、地方自治体による産業用地開発と再開発の促進という3つの方策を軸に、産業用地の新規開発を行っている。公有地の優先港開発では、台湾当局が有する約806haの用地を拠出して、産業用地として開発している。民間遊休地の有効活用では、土地取得後に値上がり期待で開発が行われていない民間用地を強制的に開発させることで、約589haの産業用地の有効活用が図られた。地方自治体による産業用地開発と再開発では、新たに 391haの新規用地が供給されたと共に、建物の立
体化推進により約149haの新規床面積の創出を実現した。
現在、台湾当局が管轄する工業団地(地方自治体管轄は除く)の中で、約370haが賃貸・売却可能となっており、総量としては、比較的まとまった産業用地が確保されている。また、これとは別に、2020年に行政院は「台湾中南部の工業団地開発計画」を発表、経済部工業局と台湾糖業が協力して中南部に5つの工業団地を開発、少なくとも 410haの供給が予定されている。
6)廃棄物処理場不足問題
① 廃棄物処理場不足の実態
2016〜20年における台湾の産業用廃棄物の排出量は、それ程変わっていない。また、大型のごみ焼却場の処理能力と処理量をみると、何れの処理
図表10 台湾の産業用廃棄物の排出量推移
出典:環境保護署データよりNRI台湾作成
図表11 台湾の大型焼却施設の処理能力上限と処理量(2020年)
出典:環境保護署データよりNRI台湾作成
量も処理能力の範囲内に収まっている。このため、全体で見ると、廃棄物処理場の処理容量には大きな問題は無いように見える。
しかし、苗栗県、台中市、彰化県等の中部を中心に、大型焼却施設の処理量は処理能力にやや近づいてきていると共に、同じく中部の雲林県や南投県には大規模焼却施設が存在しない。また、産業用廃棄物の排出量は時期によって変動する。このため、特に中部においては、時期によっては現地で処理しきれず、処理能力に余裕がある高雄市等に持ち込んで処理を行うケースも発生しているようである。
② 廃棄物処理場不足問題への台湾当局の対応
廃棄物処理を管轄している環境保護署によると、産業廃棄物処理能力全体には問題はなく、特に産業廃棄物の排出量が増える時期に、民間の廃棄物処理業者が処理単価を引き上げ、公営の廃棄物処理場に処理が集中することが問題だとしている。一方で、今後の工場の増加に伴い、産業用廃棄物の排出量が増えることが見込まれるため、新規の廃棄物処理場の整備は進めるとのことである。
前者の問題については、民間廃棄物処理業者による処理単価のつり上げを防ぐために、2021年に環境保護署はゴミの回収と運搬契約に処理可能量及び処理費用単価を明記し、処理費用単価は物価指数に基づき毎年調整を行うことを義務付けた。これにより、仮に契約内容が順守されなかった場合、民間焼却炉事業者は顧客に対して賠償しなければならなくなった。
後者については、2025年までに17か所の焼却炉の整備を完成させる計画である。その内訳は、北
部6か所、中部4か所、南部7か所となっている。
3.日本企業への影響と対応策
これまで見てきたように、台湾「6欠」問題は、何れも日本企業が台湾で事業活動を行う上で大きな問題となり得るが、台湾当局も様々な手立てを講じている。しかしながら、今回、在台湾日系企業に対してヒアリング等を行った結果、各社の危機感はかなり大きいことが分かった。特に南部については、6欠のうちの廃棄物処理場不足以外は、何れも問題があるとの指摘がなされている。また、中部での水不足問題、台湾全域での人材不足問題も深刻である。
6欠問題のうち、特に課題が大きいと思われる
のが、電力不足と人材不足である。電力不足については、実際に大規模停電が発生している中で、再エネの急激な拡大と電力の安定供給の両立に向けた具体的なアクションプランが台湾当局から未だ示されていない。この点については、在台湾日系企業のみならず、台湾の産業界からも懸念の声が多数上がっている。人材不足については、少子化という構造的な問題の中で採用が難しくなっているだけでなく、人件費の高騰も課題である。台湾当局は理系人材の育成や海外人材の導入を図っているが、企業と大学が一体となった理系人材の育成は、むしろTSMC等の大手企業による理系人材の囲い込みに繋がる危険性もある。むしろ、日本企業としては、海外人材導入の優遇措置を活用した日本人駐在員増加といったことも検討する必要があるかもしれない。実際、米国では現地人件費の高騰により、日本人駐在員の方が低コストという状況が発生しているが、今後台湾もそれに近
図表12 台湾「6欠」問題に対する在台湾日系企業の意見
出典:在台湾日系企業へのヒアリング結果等よりNRI台湾作成
い状況になってくる可能性もあろう。
水不足については、天候によらない安定供給を進めるため、今後再生水利用が更に進むことが予想される。このため、企業にとっては投資コストを押し上げる要因となってくる可能性がある。労働力は、少子化が進む台湾人の活用は限界があるため、台湾当局の政策にもある通り、今後更に外国人労働者を積極的に活用していくことになろう。産業用地については、台湾当局の積極的な整備により、総量としては足りているように思われる。しかし、企業が望む場所に空きがあるかどうかは別問題であることから、早めにInvesTaiwan Office等の台湾当局担当窓口に相談するのが良
い。なお、6欠問題で唯一大きな課題が見当たらなかったのは廃棄物処理場不足問題であった。
台湾「6欠」問題は、何れも台湾で事業活動を行う上で重要な課題である。既に台湾に進出している日本企業だけでなく、今後新たに進出する日本企業も、台湾当局の対応方策は把握しておく必要がある。一方、在台湾日系企業は台湾「6欠」問題に少なからず不安を抱えていることから、現状、台湾当局の対応策が十分に理解されているとは言い難い。こうした日本企業の懸念を払しょくするためにも、台湾当局には対応策の立案、実行だけでなく、対外発信を含めた丁寧な説明が求められよう。
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