出 塞  <王之渙>

漢詩介紹 

出塞(涼州詞)

故郷を遠く離れ 戦場での戦いのつかの間を 
琵琶を聞き酒を飲んでまぎらす 兵士の姿を
歌った詩です。 
王 之 渙の「涼 州 詞」共に 辺塞詩の
傑作だと思います。


涼州詞:出 塞  <王之渙>
黄河遠く上る 白雲の間
一片の孤城 万仞の山
羌笛何ぞ須いん 楊柳を怨むを
春光度ず 玉門関
 しゅっさい  <おうしかん>
こうがとおくのぼる はくうんのかん
いっぺんのこじょう ばんじんのやま
きょうてきなんぞもちいん ようりゅうをうらむを
しゅんこうわたらす ぎょくもんかん


CD②収録 吟者:谷澤暁声

2015年3月掲載



読み方

  •  涼州詞:出 塞  <王之渙>
  • 黄河遠く上る 白雲の間
  • 一片の孤城 万仞の山
  • 羌笛何ぞ須いん 楊柳を怨むを
  • 春光度ず 玉門関
  •  しゅっさい  <おうしかん>
  • こうがとおくのぼる はくうんのかん
  • いっぺんのこじょう ばんじんのやま
  • きょうてきなんぞもちいん ようりゅうをうらむを
  • しゅんこうわたらす ぎょくもんかん

(現代語訳)
黄河をずっと遡って白雲が白くたなびくあたりにはそそりたつ山にポツンと塞が立っている。
折から聞く羌族の吹く笛の音は別れの曲『折楊柳』を悲しげに奏(かな)でているが、そんな笛は吹くことはないという。なぜなら、ここ西の果て、玉門関までは春の光はやってこないのだから。

1.たなびくとは、霞や雲が横に長く引くようなような形で漂うことです。さらに、霞は夜になると「朧(おぼろ)」と名称がかわります。
2.そそりたつ:高くそびえる。

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黄河の上流を遡(さかのぼ)れば、その流れは遠くの白雲の間に漂い、
その遥か彼方、高く聳える山々の頂に一つの孤高の城塞がある。
その城塞の周りでは、羌族の笛が別れを恨む折楊柳の曲を奏で、兵士達の戦意を挫(くじ)こうとしている。
だが、そんな悲しい笛を吹くことも無かろう。
何故なら、この辺境の地に、玉門関を越えて春の光が届くことは無く、楊柳は芽吹(めぶ)かず、旅人に渡す柳(やなぎ)の枝を折ることさえできないのだから。


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現代語訳

黄河をはるばる遡り、白雲の中へと分け入っていくと、
険しい山々に囲まれて、ぽつんと小さな城がある。

その城から羌笛の音が響いてくる。羌の人たちよ、そうやって悲しい音色で
我々の郷愁を誘い、戦意をくじこうなんて、そんなことする必要は無いのだ。

どうせ春の光はこの玉門関の外までは届かないのだから。


詩の意味

 黄河は遥か遠く白雲のただよう夷(えびす)の地に遡(さかのぼ)って流れ、そのかなたには一つの城塞が、高く聳える山々の頂に立っている。
 (その異郷の孤城で)羌(きょう)族の笛が別れを怨む折楊柳の曲を吹いているが、どうしてそんな悲しい曲を吹く必要があろうか、どうか吹かないでほしい。これから向かうさらに西の玉門関は、柳が芽吹くことはおろか、春の光さえ差し込んでこないほどの厳寒の地なのだから。

語句の意味

  • 出 塞
    国境にある要塞を出てさらに西に行く
  • 万 仞
    「仞」は長さの単位で約2メートル 聳える山の形容
  • 羌 笛
    西方異民族の吹く笛
  • 何 須
    どうして……する必要があろうか いやない
  • 楊 柳
    折楊柳の曲(別れの曲)
  • 玉門関
    敦煌(とんこう)の西(今の甘粛=かんしゅく省)にあり西域との国境にある関所

鑑賞

  スケールの大きい大パノラマ詩

 作者は従軍兵ではない。役人として涼州に左遷されたのであろう。郷愁を抱きながらも極寒(ごくかん)の地に赴かなければならない兵士の悲しい心情を代弁しているのである。この詩の見どころは後半の2句。春光さえ届かない玉門関はどんなに寒く辛いことだろう。哀れの極みである。
 それにしても桁外れにスケールの大きい詩である。まず国境警備に出征する長安が浮かぶ。涼州は都から西へ700キロメートル。黄河はさらに上流に向かう。崑崙山脈が見えてきそうである。そこに巨大な玉門関がぽつんと構えている。途方もない距離と荒涼たる世界。さらにそこからはシルクロードに続く砂漠が展開する。たった4行の中にユーラシア大陸がすっぽり収まっている。まるで衛星から地球を見るような壮大さ。素晴らしい詩である。
 起句の「黄」と「白」の色彩の対照、承句の「一」と「万」の数の対照が修辞的効果を上げている点も注目しよう。

備考

 この詩は楽府の題名で「涼州詞」ともいわれているが、王翰の同名詩とまぎらわしいので本会では「出塞」とした。清代の大詩人王漁洋はこの詩を唐代の最高傑作のひとつと言っている。

参考

  唐代の小説集「集異記=しゅういき」によるエピソード

 ある冬の日、詩人王菖齢、王之渙、高適の3人が料亭に集まった。4人の歌姫が歌を歌っている。王昌齢が言う。「今夜この3人の中で誰の詩が一番多く歌われるか競争しないか」と。1人の歌姫が「寒雨江に連なり……」と歌った。王昌齢は壁に「1絶句」と書いた。ついで2人目が高適の詩を歌った。高適も「1絶句」と記した。3人目はまた王昌齢の詩を歌った。「2絶句」と書いた。2人の眼は王之渙に注がれた。彼は毅然(きぜん)として「あの4人のうちで最も美しい姫が歌う詩がもし私のものでなかったら、今から生涯君たちと詩を争わないよ」と断言した。やがてその美女は「黄河遠上白雲間」と歌ったのであった。王之渙は大いに自慢した。姫君たちはこの騒ぎに「何事ですか」と尋ねて、初めてこの3人が高名な詩人であることを知った。おそらく作り話であろうが、当時漢詩はこういう場所で庶民の間で歌われていたのである。

詩の形

 平起こり七言絶句の形であって、上平声十五刪(さん)韻の間、山、関の字が使われている。転句は挟み平になっている。

結句転句承句起句

作者

王之渙  688~742

  盛唐時代の役人・詩人

 山西省新絳(しんこう)郡の人。字は李陵(りりょう)。若いころは侠気盛んな好男子として遊んでいたこともあるが、一時は役人として官吏(かんり)生活を送ったこともある。しかし性格に合わず生涯の大部分を在野で過ごした。中年以降は読書にふけり詩文を学んで文壇に名を挙げた。岑参、王昌齢、高適らと親しく、辺塞詩人として有名である。詩は6首のみ残っている。享年54。

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